ビール醸造会社であるカールスバーグは、2030 年までに水の使用量を 50% 削減したいと考えています。この「無駄な水の消費をゼロに」という取り組みは、カールスバーグの「Together Towards Zero」プログラムの一環です。カールスバーグは、デンマークのフレデリシアにある生産工場で、コンサルタント、大学、グルンドフォスとの共同技術研究により、総合水処理施設を建設しました。この施設では、カールスバーグ醸造所の洗浄工程で使用された排水を回収し、飲料水レベルの水質まで浄化して醸造所に送り返すことで、生産工程で再利用しています。この施設では、生産工程からの排水の 90% を回収し、再利用することができます。
これを実現することが、長年の夢でした
状況
水はビールの生産に欠かすことのできない原料です。水がなければビールは生まれません。しかし、ビールの生産工程で使用される水のうち、最終的にビールに含まれる水の量は多くありません。デンマークのフレデリシアにあるカールスバーグの施設では、総使用水量の約 60~65% が主に洗浄目的で使用されています。この水は、冷却塔やボイラ設備で使用されるだけでなく、各種機器、床、パイプ、タンク、瓶および缶洗浄機など、あらゆるものを洗浄しています。これをプロセス水と呼びます。
プロセス水の再利用と循環が現実のものとなりました。これは本当に画期的です
カールスバーグのエンジニアリングコンサルタント会社であるNIRASの食品・飲料水部門責任者のSøren Nøhr Bak氏は語ります。
「醸造所における水の消費量は衛生と関連があります。これまで、食品を生産する際には、大量の水を必要とすることが当たり前でした。実際、かつての醸造業者は水の使用量が多いことを自慢にしていました。それが衛生面で優れていることを示す一種の指標だったからです。今日では、そうはいきません」
カールスバーグデンマークのサステナビリティ責任者のTenna Skov Thorsted氏によると、カールスバーググループは2015年に世界で生産したビール1ℓあたりに、3.4ℓの水を使用していました。
「私たちの目標はこれを1.7ℓ未満にすることです」と彼女は言います。これは、2030年までにカールスバーググループ全体で水の消費量を50%削減することを示しています。この目標は、2030年までに無駄な水の消費をゼロにすることを掲げる同社の「Together Towards Zero」プログラムから生まれたものです。
Tenna Skov Thorsted氏(カールスバーグデンマーク、サステナビリティ責任者)
Andreas Kirketerp氏(デンマークフレデリシアのカールスバーグ総合水処理施設、管理責任者)この施設では、醸造所の生産工程の排水を処理して浄化し、その90% を再利用するために醸造所に送り返しています。
プロセス水は、工場内の設備、床、パイプ、タンク、瓶および缶洗浄機などの洗浄に使用されます。
長年の夢
この新たな水処理施設の実現は、「資源・水の効率的な食品生産のためのデンマーク・パートナーシップ(DRIP)」における幅広い協力の成果です。DRIPでは、企業、研究機関、保健・食品関連当局が、水の使用と再利用の方法を見直し、水の浄化と循環の限界を拡大することに取り組んでいます。カールスバーググループとグルンドフォスは、DRIPの一員です。
カールスバーグのフレデリシア工場では、小規模な節水プロジェクトを通じて、自社の使用水量をビール1ℓあたり2.8ℓにまで削減することに既に成功していました。しかし、1.7ℓ未満にするには、さらに大きな取り組みが必要でした。そのため、醸造所内の関係者との数か月におよぶ協議の末、カールスバーグは思い切って 2019年に総合水処理施設と呼ばれる実証施設を建設することを決定した、とSøren Nøhr Bak氏は言います。
「カールスバーグは世界中に80以上の醸造所を保有していますが、その一部は水不足の地域にあります。そこで私たちは管理された環境下でこの構想を実現させ、他の地域の醸造所にも実装したいと考えました」
カールスバーグデンマークの醸造責任者のAnders Kokholm氏は次のように語ります。
「長年にわたり、水の再利用は弊社の夢でした。弊社はグルンドフォスを含め、他の企業と連携し、生成された水を使って醸造も行ってみることで、この構想を実現できることを確認しました。これは大規模であるだけでなく、構想から立ち上げ、フル稼働することまでが目標でした」
自社工場でプロセス水の再利用を実現
「プロジェクトの基本的な考え方は、醸造所のすべてのプロセス水を回収して水処理施設に送り、その後、安全な飲料水レベルにまで浄化して、醸造所で再利用できるようにすることです。この水は醸造工程で製品に入れることはしません。洗浄工程にのみ使用されます」と、Kokholm氏は述べています。
NIRASのSøren Nøhr Bak氏は、デンマークの食品・飲料会社におけるこの規模の試みは初めてだったため、カールスバーググループとデンマーク当局の双方から品質・リスク評価に関する承認を得ることが大きな課題だったと言います。
「私たちは品質に関連するすべての人と話をしました。それはフレデリシアの醸造所の品質部門だけではありません。グループの品質部門、コカ・コーラやシュウェップスの品質部門の承認も必要でした。この工場はこれらのフランチャイズ向けの製品も生産していたからです。もう一つ重要な関係者として、もちろんデンマークの環境当局や食品・飲料関連当局などにも働きかける必要もありました」
デンマークのフレデリシアにあるカールスバーグの総合水処理施設では、嫌気性および好気性の排水処理を行っています。左側の嫌気性タンクはバイオガスを生産し、カールスバーグはこれを醸造工程の熱源に利用することで、持続可能性をさらに高めています。
デンマークフレデリシアにあるカールスバーグ総合水処理施設におけるグルンドフォスのソリューション
総合水処理施設
総合水処理施設では1日に2000㎥のプロセス水を処理し、そのうち90%(1800㎥)を回収、再利用することが可能です。この施設ではバイオガスも生成しており、カールスバーグはこれを施設の熱源に使用し、持続可能性をさらに高めています。
嫌気性・好気性の生物処理工程と、MBR膜ろ過を組み合わせることで、排水中の汚染物質と固形物の大部分を除去することができます。処理された水は、閉鎖式回路逆浸透(CCRO)施設でさらにろ過され、水中の溶存塩類が除去されます。次に、炭酸カルシウムを使用してRO透過水を中和し、飲料水レベルの水質を確保します。安定した数値を得た水は、紫外線処理を施されます。さらに、二酸化塩素を注入することで、細菌のリスクを取り除き、配水管のバイオフィルムの蓄積を防ぎます。
PantareinのBryan de Bel氏は次のように語ります。「グルンドフォスから完全な薬液注入ソリューションを入手したことで、大幅な時間の節約と負担の軽減ができました。薬液注入ポンプ、配管、バルブなどあらゆるものが含まれた完全なシステムを入手できたのです。それに加えて、ポンプには流量制御機能を備えたソフトウェアが搭載されています。これにより、必要な薬液注入が行われていることが保証されるのです」
グルンドフォスの薬液注入システムは、カールスバーグ総合水処理施設の内外に設置されています。
カールスバーグの総合水処理施設では、4台のグルンドフォスNBポンプが嫌気性および好気性タンク、調整タンク、バイオガス洗浄機で水を循環させています
醸造責任者のAnders Kokholm氏は、信頼性以外にも、この構想には現実的な課題があり、それを解決するには時間が必要だったと言います。
「懸念事項の1つが、これまで使われていた水道水と比べて、施設から送られる水の温度が高いということでした」とKokholm氏は述べます。デンマークの水道水の温度が約8〜9°C前後であるのに対し、総合水処理施設で生成される水の温度は20〜28°Cでした。
「醸造所への実際の影響はどうか、もちろん運用前に研究を行いましたが、これまでに前例がないことでした。例えば、微生物に悪影響がないか懸念していました。しかし、実際には非常にうまくいっています。微生物に問題がないか、実際に水を消費する場所も含めて確認作業を多数実施しています。その結果、すべての試験において水質が求められる基準を満たすことが示され、影響が無いことが分かっています」
Anders Kokholm氏(カールスバーグデンマーク、醸造責任者)
成果
総合水処理施設は、約半年の試運転期間を経て、徐々に稼働率を上げてきました。Anders Kokholm 氏は、段階的に完成へと進めていると説明します。
「この立ち上げには非常に興奮を覚えています。私たちは本当に多くのことを学びました。2021年の初めに稼働を始め、施設の微生物が水に慣れるよう、徐々に工場に充填を開始しました。排水処理に十分な汚泥を溜めるには、ある程度の時間がかかります。つまり、これはフル稼働することによって完成する工程なのです。醸造所のビール1ℓの生産に対する水の使用量に関しては、非常に良い効果が出ています。まだ目標レベルには達していませんが、じきに到達することでしょう」
Søren Nøhr Bak氏は次のように述べます。
「これは非常に多くの人々に対してのパラダイムシフトと言えます。食品・飲料業界において水を再利用することについて、考えたことはありますか?今回、それが可能であることが実証されたのです。弊社は、プロセス水から飲料水を安全かつ確実に製造できる技術を手にしています。本当に画期的です。水が不足している全ての地域、まだ排水の処理が行われていないあらゆる場所で、この技術は役に立ちます。今こそ、何ができるか考えてみましょう。プロセス水の再利用と循環は現実のものとなったのです」
Søren Nøhr Bak氏の言葉に、Anders Kokholm氏は続けます。
「カールスバーググループにとっては、ここで試験を行った後、水不足が深刻な地域にもこの技術を導入していくことが重要となります。具体的には、インドや中国などの操業地域への導入を検討しています。そして、このようにプロセス水を回収して再利用することは間違いなく大きな前進であり、カールスバーグが2030年の目標に向かって進んでいることを意味しています」
カールスバーグの水の再利用に関するデータ
出典:
この記事の情報は、2021年9月および10月のカールスバーグ、2021年10月のNIRASの現場でのインタビュー、2021年10月のPantareinとのオンラインビデオチャットにおいて関係者から入手したものです。DRIPパートナーシップと水の再利用に関する研究の詳細については、こちらのウェブサイトをご覧ください。
注:本文中の「飲料水」は、飲用に適するレベルにまで浄化された水を示します。原則としては、安全に飲める水を意味しますが、この場合は最終的に製品に含まれる成分を意味するものではありません。
グルンドフォスの提供内容:
デンマークのフレデリシアにあるカールスバーグ総合水処理施設に関して、グルンドフォスはPantareinとカールスバーグと協力して、処理工程全体に最適な薬液注入ポンプおよびシステムを選定しました。これには以下が含まれます。
- 水中SL廃水ポンプおよびミキサー
- バイオタンクとバイオガス洗浄機間の循環用NBエンドサクションポンプ
- デジタル薬液注入ポンプ、配管、アクセサリなど、すべての処理工程に必要な薬液注入システムとUF-RO膜CIP
- UF - RO膜 CIP:
- RO装置用の立形多段うず巻ポンプ CR
- 監視および制御システム
- 二酸化塩素生成装置 Oxyperm Pro
- ポリマー製造ユニット POLYDOS
- マルチ監視制御注入システム DID